約束の時間だ。
祭り最終日の正午、孫の手を取り長男の嫁と浮き浮きしながら自治会館へ向かった。
大勢の担き夫が休憩を取っている自治会館の玄関先で、夫が手招きをする。
私達は、次男の彼女に会った。付き合って1年以上が経ち、ようやく紹介をしてくれた。
彼女は楚々として振り袖姿だった。顔を合わせて名乗りあった。
場所も場所だし、慣れないお召し物の所為か、こころもち緊張している様子だ。
たった数分の簡易的な場所でのご挨拶では、相手を知ることは不可能だ。その後の予定を知らされることも無かった。
その数時間後、驚くことがあった。
息子が公衆の前でプロポーズをした。
詳しく言うと、本郷自治会館前の花束贈呈会場で、次男は花束嬢の彼女Yさんにプロポーズをした。
さらに詳細を書く。
宴もたけなわ、息子は指揮者として彼女Yさんから花束を受け取った。息子が指揮する太鼓台が、紅白の会場を通り過ぎたと思ったら太鼓のはやし打ちで 戻ってきた。
ユッサユッサと揺れる房の下で担き棒にまたがった息子がマイクを持ち
「〇〇さん大好きです。僕と婚約してください。」
と、壇上に居る彼女Yさんに申し込んだ。
「はい。」
と、嬉しいお返事を頂いた。
確かに聞こえた。
善きお返事で良かった。
婚約成立。
このサプライズは、本人の希望なのか?
誰かにおだてられたのか?
どなたかの薦めだとしても、イベントの真っ最中、この段取りは大勢の承認が必要だ。
公私混同は許されないはずだけど…。異例のことだ。
深みのある太鼓の音色と共に、大量のお生花とその花びらが吹雪くように舞い天幕からトゥルトゥルトゥルと垂れ幕が降りてきた。
そこには、「〇〇くん、〇〇さん、婚約おめでとう!」と、書かれてあった。
太鼓台を守ってきた地元の人達に、二人は歓迎されている。
勘違いも甚だしくおめでたい人と思われても良いじゃない。これからもそのように受け止めた方が幸せに違いない。
婚約、おめでとう。
うれしくて、まだ心が騒いで落ち着かない。
ところで、
何故、婚約してくださいなんだ?
結婚してください。
と、言わなかった理由は何故なんだ?
まー、ゆっくり話しを聞こうじゃないの。
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